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いまさら『モンテ・クリスト伯』考 [宙組]

宝塚版『モンテ・クリスト伯』は最初はどう受け取ったらいいかわからなくてずいぶん困ったお芝居でした。
とくにエンディング。
①どうしてアルベールがダンテスの息子だと断言できるのか。
②宝塚版においてエデ姫を出す必要はあったのか。
この2点については公演の終わったいまも満足のいく答えが出ていません。

①問題はフェルナンがアルベールを自分の息子だと信じていた点です。
フェルナンを騙せるような状況でどうしてメルセデスは「あなたの息子よ!」と言い切れるのか。
ホメロスもオデュッセイアで次のように書いています。
It is a wise child that knows his own father.
(父親が誰か知っている子は賢い)
テレマコスは、「自分はオデュッセウスの息子だ」と言いながらも、「そう母親は言う」と註釈をつけることを忘れない。
父親が誰か、それは永遠の謎なのです。
(ここでDNA検査なんていう興醒めな話を出さないでくださいね)

②正直、宝塚版からエデ姫を抜いても話にはほとんど支障はないです。
エデ姫がプロットに関わってくるのは、フェルナンに復讐しようとするのをやめたことで赦し愛するという行為をダンテスに見せつけるというところくらいなわけで。
ダンテスが改心し「赦し」を学ぶためのきっかけなら、メルセデスの母親としての愛に触れる時と、アルベールの「赦し」の心に触れる時で充分です。

ということで、①についてはアルベールの存在意義はダンテスに究極の赦しのかたちを見せることであって、彼が本当にダンテスの息子かどうか、そこが問題なのではない、そこを突き詰める必要はない、となんとか納得しています。
②に関しても、原作でのエデの重要性を考えたら出さないわけにはいかなかった、という感じでしょうが、それにしても印象が薄い人物だったなぁと思います。
そのわりに、ベルツッチオは決闘のシーンで「家族の和解のあとは・・」とエデ姫と話すようダンテスに促すときに、「・・・」と言葉を省略するわけです。
それって、メルセデスとの和解の後にダンテスがエデ姫と向き合わなければいけないことが自明のこととされている証だと思うんですが、私にはあのクライマックスのシーンでわざわざエデ姫にセリフを言わせた動機が理解できませんでした!
初見では、おしかけ女房どころかあなた何様状態でした、エデ姫。

とまあいろいろ腑に落ちない点はあるのですが、それらが一斉に解消された瞬間が東宝の中日過ぎたころにやってきました。
全体を見渡せる席に座ってみて、ハイスクールの面々と『モンテ・クリスト伯』内の人びとが交互に登場しては舞台袖に消えていく様子が改めて確認できたんです。
ハイスクールの面々は、花道に出てきては解説をしてすぐはける。
それまではこの構造がとってもダサいと思っていました。
しかしその日はエンディングでファラオン号IIに乗って人生の再出発を果たした幸せそうなダンテスとメルセデスを、上手花道でそれはそれは幸せそうに見守るハイスクールのみなさんを初めてちゃんと観たんです。
そこで気づいたんです。
ああ、宝塚版『モンテ・クリスト伯』は、おとぎ話だったんだなと。
Once upon a time, there lived...
そう始まる物語だったんだと。

私はずっと、大作『モンテ・クリスト伯』(ドーンという効果音付きで)を求めて観劇してたから腑に落ちなかったんだと。
そうじゃなくて、昔々あるところに船乗りのダンテスさんがいて、メルセデスさんという婚約者との結婚式の日に無実の罪で投獄されてしまいました。いろいろあったけど、赦すこと、愛することの大切さを学んでもう一度人生をやり直すことになりました、という体で観ればよいのだと。
そう思ったらいままでつかえてたものがスーッと流れて、すっごく幸せな気持ちになりました。
宝塚版『モンテ・クリスト伯』は、ハイスクールの人びとの視線に立って観るものなんだと、そう割り切ったら、エンディングで自然に涙が出てきたのです。

最後の最後であの芝居の納得のいく観方が発見できてよかったです。
その後3回くらい観る機会がありましたが、とくに千秋楽のエンディングでミス・メアリたちが手をつないで「わーい!わーい!」と嬉しそうに幸せそうに花道に出てきてはけていくのを観たときの幸福感は格別でした。

結局はとってもよいお芝居でした。ちゃんちゃん。
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コメント 7

スマイル

てんかさん

モンテクリスト伯、確かに何度か観て感じる事沢山ありますよね。エデ姫のとこは共感します。

今日、うたかたの恋 観劇してきましたよ♪かなめルドルフはすごく品があって軍服姿は天下一!!りおんマリーも、恋に恋する乙女で可愛かったですよ。まぁ君も軍服かっこ良かったし、れーれミリーとの相性ばっちし。お妃役のうららちゃんと無理矢理踊るシーンのまぁ君が力強く強引で、私だけかな…。カッコよかったんです。
私、昔のうたかたDVD見て予習してたんですが、ルドルフがマリーを道連れに自殺したとしか思えなくて…そのまま今日観劇したんですけど、今回のうたかたで2人共愛し合って心中した事にやっと府が落ちました。それほど、2人は幸せに満ちあふれてて、いいお芝居でした。大劇場でしないかなぁ~熱望。ショーは多少変わってたけど客席降りが多くて、大盛り上がり!!まぁ君の泥棒紳士やっぱりかっこ良かったです。


by スマイル (2013-07-20 19:21) 

てんか

スマイルさま

またまた大変遅くなりすみません!
うたかたご覧になったのですか・・うらやましいです!私は関東までお預けです。
エンディングに納得されたと聞き、かなめさんとみりおんのお芝居が説得力があるんだなとますます楽しみになりました!ショーもテンションが高そうで夏にぴったり♪ 宙のショーはしばらくもう見れないので満喫してこようと思います!
記事も近々アップできたらと思いますので、またいらしてくださいね><
by てんか (2013-07-28 17:08) 

職務経歴書のダウンロード

とても魅力的な記事でした。
また遊びに来ます!!
by 職務経歴書のダウンロード (2013-09-14 12:32) 

スマイル

お元気ですか?
私は今から「風共-」を観劇してきます♪
今日は海ちゃんスカーレットに、まぁ君アシュレの日です。
まぁ君スカーレットも行くんですが、楽しみ~!

「風共-」は天海バトラー以来なんで、当時は天海バトラーをオペラグラスで追いかけてたミーハーな私でしたが(^^; だいぶ色んな感情が分かるお歳頃になったんでしっかり風共の世界にひたってきます!!
でわ~
by スマイル (2013-10-15 10:18) 

てんか

スマイルさま!!
コメントいただいていたのに気付くのが遅くなってしまい本当にごめんなさい。。
実は最近ブログの行く末を考えていまして、移行するかこのままここでやっていくか、ちょっと悩んでいて更新をためらっていたのです。

風共いかがでしたか!?
私は・・今回宙組公演中には帰国できないことが決定してしまい、異国の地で涙を流しまくったので、ぜひともご感想をお聞きしたいところです。しかもAB両パターンご覧になるなんて本当にうらやましいです><
天海バトラーもご覧になったのですか・・かなめさんとはだいぶ持ち味が違う方なので、今回はきっと全然違った印象をお持ちになったんではないでしょうか。

私は年明け雪組で帰国予定です。まっつのことも心配です。

重ねて、遅れてしまって失礼いたしました!
by てんか (2013-11-04 08:42) 

July

久しぶりに覗いたらてんかさんのコメントあったので、書き込みします。
お元気な様子で何よりです。
そちらでは鯛やヒラメの舞い踊りはご覧になることはありませんか?
そろそろ禁断症状は出ませんか?

私も宙組「風去り・・・」AB両パターン観ました。
まなとさんが声もレディーに変換していたので感激でした。
カイちゃんはまだ硬い位の時期に観てしまったので、残念でしたが。
かなめさんが歴代ナンバーワンの美しいバトラーでうっとりです。
実は初代の榛名由梨さんと順みつきさんの「風去り・・」観ているので、演出、舞台美術は特にダンスはバージョンアップさせるべきだと思いました。生徒さん自身がレベルアップされています。物足りない!
姪っ子はまなとさんのお茶会参加でハイテンション。
結局母親もFC入会することとなり会マフラーがこちらにも・・・。

来週は祐飛さんの大阪公演なので通いますね。
観劇後、また書きますね。
by July (2013-11-04 19:50) 

てんか

Julyさま

コメントありがとうございます!
ご無沙汰してしまいましたが、こちらでの生活もだいぶ落ち着いてきたのでこれからもブログを書きたいと思っています!
宝塚の禁断症状はすでに一番ひどい時期を越えて落ち着いてきたくらいです。
宙組を観に帰れないことが何よりの痛手で、本当に部屋でひとりで泣いていました(涙)まぁくんの声がレディーだなんて、ちょっと想像がつかないです。花組のミーマイではあまりレディという印象を受けなかったものですから・・^^;;
観劇歴の長いJulyさまから歴代ナンバーワンの称号をもらったかなめさんバトラー、生で観たかった・・><
姪っ子さん、どうなさってるかなぁと思ってました。FCにも入られたとは・・!いずれどこかですれ違うかもしれませんね。

ゆうひさん大阪公演は11月でしたね。
まぁくんまぁくん言ってますが、無性に会いたくなるのはゆうひさんです。
こちらにDVD50枚くらい持ってきましたが(爆)ゆうひさんの映像を見ると、何でもないところで涙が出たりします。ご感想お待ちしています!
by てんか (2013-11-06 08:23) 

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