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サウンドトラック [FROZEN(アナと雪の女王)]

『アナと雪の女王』の魅力をひとことで言うと、音楽の勝ちです。

歴代のディズニー楽曲と比べると、最近のミュージカルの流行を取り入れた曲調が新鮮に感じられます。
そして今回の楽曲を何よりも特徴づけるのが歌詞です。
ラブソングとして成立させつつ、そのまま姉妹愛をも説明する、その技に脱帽です。

サウンドトラックはアメリカのBillboard Chartでビヨンセのアルバムを抜いて1位に輝きました。
ご存知"Let It Go"はアカデミー賞歌曲賞を受賞。
それ以外も主題歌級の曲ばかりで、困ってしまいます。
書きたいことがたくさんあったので、サントラに沿って、一曲ずつ感想を書いてみました。
"Love Is An Open Door"の項目に重大なネタバレがひとつありますが、それ以外はあまりストーリーには触れないように書いてみました。
映画をまだご覧になっていない方が読んでもあまり問題はないと思いますが、何も知りたくないという方は読まないでくださいね。

“Frozen Heart”
氷というテーマを印象づけ、クリストフというキャラクターを登場させるための曲目。位置付けとしては、Les Miserablesの“Look Down”に似ています。歌詞をよく聞くと、実はこの作品全体を通して鍵となることばが散りばめられています。最初に観たときは歌っている人たちがむさくるしいし、映画の残りのシーンと雰囲気がだいぶ違うので違和感がありましたが、鑑賞回数を重ねるにつれ実にうまく観客を物語の世界に引き込むように書かれているなと感心することになりました。

“Do You Want to Build a Snowman?”
Frozenと言えば"Let It Go"が独り歩きしている感がありますが、このストーリーの中心となる曲を一曲挙げるとすれば、これになると思います。物語の主軸となるアナとエルサの関係が見事に表現されているし、数分の中でのドラマ・感情の起伏という点で言えば、"Let It Go"に匹敵するかもしれません。アナの声を担当したKristin Bellの歌声が初めて流れるのがこの歌でもあります。ディズニーヒロインにぴったりの可憐な声です。ちなみに幼少期アナの歌声を担当しているのは、作曲家夫婦の娘さんであったりします。すごくうまい。

"For the First Time in Forever"
ヒロイン・アナの夢と希望を描く、歴代のディズニー楽曲に一番イメージが近い一曲。
しかし途中からエルサのパートが入ることにより、この映画がいままでの(まさに)「シンデレラストーリー」と一線を画していることを物語っています。単にダブルヒロインというだけでなく、一方が期待に胸をふくらませているのと同時に、もう一方は不安と恐怖に支配されている。その対照によって観ている側の感情の振れ幅もより大きくなり、とてもドラマティックな一曲になっています。唯一Reprise(同じメロディーがあとで使用される)がある曲でもあります。(後述)

"Love Is an Open Door" (ネタバレあり)
アナとハンスによる、とにかくハッピーなミュージカルナンバー。ヒロインが悪役と歌うナンバー(しかもラブソング)があるというのが斬新。というかこんな名曲を悪役のために割いてしまうこの余裕というか懐の深さというか楽曲の豊富さですよ!
タイトルは「愛は開かれたドアのようなもの」という意味。アナとハンスのラブソングですが、これはそのままエルサの部屋をノックするアナにつながります。ちなみにこの楽曲のシーンは通して光の使い方が印象的で、二人の影を船の帆に映したりと、かなりはっきりと陰影をつけています。それもハンスというキャラクターの光と影を暗示している・・というのは勘繰りすぎでしょうか?

"Let It Go"
言わずと知れた、本作の正式な主題歌。エルサがずっと隠してきた雪と氷の力を解放する場面で使われます。映像と音楽とストーリーが見事にはまった名シーン。カタルシスとはこのことだと実感できます。
しかしこれは単純な自己解放の歌ではありません。エルサは自分の力を解放することの代償に、過去、そして自分がいままで属していた世界に背を向けて、自分を遮断する道を選ぶからです。サビでturn away and slam the door! (背を向けてドアを閉めるのよ!)と叫ぶ姿はすがすがしいと同時に痛々しくも見えます。そして曲は重い氷の扉がバタンと閉まるところで唐突に終わる。この映画の重要なモチーフのひとつに「ドア」がある(別記事参照)ことを考えれば、それが意味するところは大きいです。決して単純な抑圧からの解放を歌ったものではないところが深いですね。

この曲はエンディングでも使われています。そのDemi Lovatoバージョンでは新たな歌詞が挿入されているのですが、それがまた秀逸です。

Standing frozen in the life I've chosen
You won't find me, the past is all behind me
Buried in the snow
(凍ったまま立ち尽くす でもこれが自分で選んだ人生
いままでの私はもういない 過去は雪に埋もれて見えなくなってしまった)(拙訳)

使っている言葉はどれも簡単なものだし、よく聴くような内容かもしれないけれど、これはどこからどう見ても完ぺきな歌詞です。どこをどう動かしてもバランスが崩れてしまう。これ以外に考えられない!ということばをぴったり持ってくるというのは相当に難しいことです。将来、こういうことばを紡げるようになりたいと心から思います。

"Reindeer(s) Are Better Than People"
クリストフとスヴェン(を演じるクリストフ)による隠れた名曲。短いし単純なメロディーですが、二人の関係性が強く打ち出されているのと、何よりもクリストフ役のJonathan Groffの声がすてき[ハートたち(複数ハート)]最後に"don't let the frostbite bite"(しもやけになるなよ)と、ちゃんとFrozen(氷)の世界に戻ってくるところもポイントが高いです。

"In Summer"
雪だるまのオラフが、まだ経験したことのない夏に思いを馳せる歌。ぎらぎら輝く太陽の下、砂浜に寝そべる雪だるまという構図がアメリカ人にはたまらないんだろうな~とか思いつつ、自分的にはあまり盛り上がらなかった曲。というかオラフというキャラクターにはあまり感情移入できなかったのです(詳しくは別記事)。私のまわりでは断トツ一番人気なんですがね。妄想を歌った歌で、海辺がでてきてピクニックしているシーンがでてきた時点で、Sweeney Toddの"By the Sea"を思い出しました。

"For the First Time in Forever (Reprise)"
映画の始めでは、アナが生まれて初めて外界に接する喜びを歌っていたのが、ここでは生まれて初めて姉のエルサと向き合うということがテーマになっていて、そのずらし方がうまいなぁと思います。セリフから歌に入る流れが自然であり、一曲の中で起承転結がはっきりしている点で、ミュージカルナンバーとしてすごくよくできています。エルサの"I can't!"の高音は、実は"Let It Go"の最後の高音よりも半音高かったりします。

"Fixer Upper"
美女と野獣の"Be Our Guest"、リトル・マーメイドの"Under the Sea"、アラジンの"A Friend Like Me"といった楽曲に相当します。宝塚を愛してやまない私は、これを「ディズニーの中詰」と呼んでいます。「愛の専門家」トロールたちによるゴスペル調の軽快な歌で、いっしょに口ずさみたい曲ナンバーワンです。
タイトルのfixer upperとは、売り物件とかで修復工事が必要とされる建物のことを指します。(要は私がいま住んでいる家のこと)(私信)(愚痴)。あまり歌には使われないことばだし、ましてやディズニーに出てくるとは思いもしませんでしたが、そういうことばを難なく持ってきてしまうあたり、その感覚に脱帽です。
ひとはみな欠陥を持っている。でもそれを直せと言っているのではないし、ひとは簡単には変わらない。ただ愛は強くふしぎな力を持っている。怒りや恐怖、ストレスに支配された時、ひとは間違った道を選んでしまう。だから少しだけ、まわりのひとに愛を示してみようよ。
表向きにはクリストフとアナの関係を歌っているのですが、これがアナとエルサの関係以外の何を語っていると言うのでしょう。

すべての歌を担当した作曲家のRobet LopezとKristen Anderson-Lopezは夫婦です。
とくに夫のRobert Lopezはエミー賞、グラミー賞、トニー賞、アカデミー賞を受賞した数少ない人のひとりでもあります。しかもまだ39歳。なんたる才能でしょう。
夫婦は、二人の娘に試作を聴いてもらいながら作曲していったそうです。
さらに上述のように一人はアナの幼少期の歌を担当し、もう一人は"Fixer Upper"で歌っているとのこと。
家族全員でのプロジェクトだったと言えるわけですが、それが今回の映画のテーマである「家族愛」とも重なって、これら名曲に結実したのだと思います。

また、Christophe Beckによる器楽曲もどれも名曲揃いです。
とくにオープニングで流れる"Vuelie"とエルサの戴冠式で流れる"Heimr Arnadalr"はどちらもアカペラで、力強く美しいハーモニーに心があらわれます。

そして"Epilogue".
ディズニー映画のエピローグではよくその映画の主題歌が再び使われます。まさに大団円という感じで、大勢のコーラスが主題歌の旋律を歌い上げる部分が、私はたまらなく大好きなんです。
それが今回はインストゥルメンタルだけで歌がなかったのが、ほんのちょっとだけ残念でした。歌が入らないと、少しあっさりした終わり方に聴こえるんです。"For the First Time in Forever"のメロディーは使われていますし、とてもきれいな曲ではあるのですが。
でもよく聴くと、本当の最後には、"Do You Want to Build a Snowman"のメロディーが使われてるんですね。それに気づいたときはもういても立ってもいられなくなりました。
すべてが始まった、あの最初のシーンが思い出されて涙が止まりませんでした。

以上、歌曲を中心に見てきましたが、こんなに贅沢なサウンドトラックはなかなかありません。
ぜひぜひ通して聴いてみてください。
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July

お約束のようにエルサの「Let It Go~」がこだまするので映画を観た後サウンドトラックCDとパンフレットを買おうと思ったら既に売り切れでした。
てんかさんの記事で予習していたので、勿論エンディングロールもしっかり聴きました。エンディングになった途端、席を立つ人もいますが勿体無いですよねえ。 因みに韓国映画ってエンディングロールが終わった後意外な結末が出ますよね。

「FROZEN」の予告では大好きな松たか子さんなので吹き替え版でもいいかな?って思っていましたが、レクチャーして頂いた通り字幕版で正解でした。
アナも素直に愛らしいし、エルサは俯きかげんながらも秘めた姉たる強い愛を感じる姉妹愛物語なのですが、設定が姉妹逆では全く印象が別物になったのではないでしょうか。やはり姉妹役割ってあるのかなあ~?
「FROZEN」だけど、とっても温か~くなれる良い作品でした。
レクチャーありがとうございます。



by July (2014-03-22 21:25) 

てんか

Julyさま

レクチャーだなんて、そんな!でも宝塚ファンの方に宝塚以外の記事にこうして反応していただけると、喜びが倍増です^^
FROZEN、いい作品ですよね!数日前に日本語版の歌がiTunesで配信され私も試聴しましたが、歌詞はかなり練られているし松さんも神田さんもうまくて、そちらも見てみたいという気になりました。
姉妹が逆になっていたら、きっと全く別のストーリーになったでしょうね。FROZENを一言でいうならば、「妹を守る」が「姉を守る」に転じる、妹の成長物語だと思うので。映画の端々に、姉妹ならではの関係性がないと成り立たない部分が散りばめられていたように思います。私は長女なので、エルサにひどく感情移入してしまいました。

機会があったらぜひサントラを入手してみてください!
by てんか (2014-03-23 04:11) 

July

5月3日日本語版とオリジナル両方セットのサントラ発売でしたが、又しても売り切れで再度お取り寄せでやっとじっくり聴き比べしました。
映画の吹き替え版は未見ですが、「生まれてはじめて」の神田沙也加さんがイイ!めちゃくちゃ可愛い!愛らしい! まさにアナのイメージにぴったりだわ。
勿論松たか子さんも抜群だけどね。
エンドソングのMay J.さんも上手だけど劇中のエルサのlet it go には成熟しすぎているように思えます。
先日「関ジャニ仕訳」の番組でmay J.さんを遂に破ったサラ・オレインさんのlet it goにも聞き惚れました。

ところで、祐飛さんの「天守物語」観てきました。
声もすっかり変換された富姫でした。
会場は歌舞伎・能狂言、宝塚・・・ニコ動が取り込みたい客層ワンサカで何とも華やかでした。水曜日で大劇場お休みのためか現役ジェンヌさんたちもたくさん来られていました。
プログラムを買うのに3列並び、出待ちに3列並び。相変わらず大変だわ。
早く帰りたい病は大丈夫ですか?

by July (2014-05-05 19:43) 

てんか

Julyさま

サントラ入手されたようでよかったです。私も日本語版は歌しか聞いていませんが、神田さんの歌に感動しました!親の七光りとは言わせない、という感じですね。サラ・オレインさんは教えていただくまで知りませんでしたが、IdinaともMay Jさんとも全く違った歌い方できれいでしたね!

『天守物語』見たかったです涙涙。ゆうひさんの声、『滝の白糸』ではまだ男役の名残があったように感じられましたが、女性らしい声のお芝居をされるようになったのでしょうか。7月後半に帰国予定なのでLa vieも観たいのですが、そもそも宙組も雪組もチケットが取れていないので観劇がかなうかわかりません。会も東京はなかなか追加申込ないでしょうし・・。見れなかったら何のために帰国することになるのでしょう!
by てんか (2014-05-18 22:25) 

July

アナに限っては神田沙也加ちゃんに一票です。流石声優学校に通っていただけあって、とても情感溢れています。声だけで萌え~~~って日本人だけじゃなかった?
声優さんだけのファンミまでやってますものね。
それにしても、こんなに社会現象化するとは思っていませんでした。
「Let It Go」楽譜コンビニにて購入率一位って、私も買ったわ。スポーツクラブでも連日掛かっています。・・・ってことは有線リクエスト多いってことね。

宙組の「ベルばら」で、もう百周年を機会に封印しても良いのでは?
観ているほうが恥ずかしい。植じい、もういい!
かなめさんは美しい!!決して生徒さんは悪くない!

La vie観るとファンスイッチ入ってしまうかもですね。う~ん。
by July (2014-05-21 00:32) 

てんか

Julyさま

神田さんは声優学校に通ってたのですか・・!たしかに、海外では「アニメ声」という概念がないように見受けられます。声優らしいオーバーな演技もないですし、普段通り演技して声だけを録音したという感じですね。こちらにいると、映画が日本でどの程度流行っているのか見当がつかないのですが、公共の場でも流れていると聞いてびっくりしました。

ベルばら、ツイッターやら何やらで情報収集の日々です。私はオスカルのままでのフィナーレ、すごく美しい!いい!と思ったのですが、かなめさんファンの知り合いは「男役が見たかった」と不満をもらしつつ日々通っているようです(笑)ベルばらはたしかにもうおなかいっぱいですね。まぁくん全国ツアーもどうなるのか。

La vieを観たら号泣する絶対的な自信があります。ゆうひさんは私にとってかけがえのない存在だと常々感じています。最後に生で見たのは、東宝の雪フェルゼン編を観劇にいらした時でした。もう一年近く見ていないです涙。
by てんか (2014-05-25 07:36) 

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